ふと気がつくと、私は見知らぬ町に立っていた。ビルが立ち並び、車が行き交うその町は、一見、私が住んでいるところに似ていた。しかし、明らかに私のまちではなかった。そらは青く、空気は澄んでいた。いたるところに緑があふれ、花が咲いていた。また、そこにさまざまな人種の人たちがいた。でも不思議なことに言葉は誰とでも通じるらしく、皆、楽しそうに語り合っていた。しばらくぼう然としていると、一人の日本人らしき男性が近づいてきて私に話しかけた。
「ようこそ。おまちしておりました」
ダークスーツをさり気なく着こなしたその人は、四十代半ばくらいの品のいい紳士だった。しかし誰なのか、まったく覚えがない。とまどう私に、彼は言った。
「どうぞ私といっしょにいらしてください」
わけがわからなかったが、悪い人には見えなかったので、私は彼の後ろについて歩き出した。
そこは、やはり私のまちとは違っていた。建物にしても車にしてもすべてのものが美しく、
自然と見事に調和している。派手さや豪華さはなく、非常にシンプル。しかし、機能美というのか、無駄のない、とても好感の持てるデザイン、色づかいがされていた。町並みに見とれながら少し行くと、彼は一軒の喫茶店に入った。広くは小ぎれいな店で、わたしたちが席につくなり、ウェイトレスがメニューを持ってきて言った。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょう」
そのウェイトレスはかわいらしい顔をした黒人女性だったが、日本語を話せるらしかった。紳士は私にメニューを渡し、何か注文するよう促した。私は何も見ずに、
「あ、コ、コーヒーを......」と言った。
紳士はウェイトレスにメニューを返しながら
「コーヒーをふたつください」と言った。その丁寧な注文のしかたが、耳に心地よかった。
「かしこまりました」
ウェイトレスは、にっこり笑って厨房の方へ去って行った。
少し沈黙があってから、私は紳士に聞いてみた。
「あのう......」
紳士はほほえんでいる。
「ここはどこなんでしょうか」
紳士はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「さあ、どこでしょう......」
「は?」
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